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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー43【鈴虫】

第三十八帖  <鈴虫 すずむし>  あらすじ

夏、蓮の花が咲く頃、六条院で女三宮が造らせた仏像の開眼供養が行なわれました。
源氏はさまざまな準備をし、紫の上も錦などを用意しています。
寺におさめる教典は、足が沈香の木で作られた机に載せられる豪華さ。
唐渡りの香がただよい、青、白、紫の色を使った蓮の造花が飾られ、寝台の奥には曼荼羅が掛けられています。
源氏はせめて来世では夫婦として添い遂げられるよう、願文を書きました。

源氏が女三宮の近くにゆくと、女房達が大勢いて歩く余地もないほどです。
まるで富士山の噴火のように薫物がたかれているので、香はほのかに漂うのがよいとたしなみのない女房達を注意する源氏。
女三宮にはやさしく法会の趣旨を教えます。

「来世での夫婦の約束をしても、現世では一緒にいられないのが悲しいことだ。」と詠みかける源氏に
「そんな約束をしてもあなたの心はちがうところにあるのでしょう。」と応える女三宮。
苦笑いしながらも、感慨深く思う源氏なのでした。

出家した女三宮のために、朱雀院は三条にある屋敷に移った方がよいのではないか、と伝えます。
源氏は出家されてしまってから女三宮を惜しむ気持ちが高まり、残り少ない余生の間はきちんと世話をしたいと、
六条院から手放そうとしません。
それでも三条の屋敷の修理は美しく行ない、女三宮の財産管理も怠りなくさせています。

源氏は相変わらず出家したことを恨み女三宮に迫っていました。
柏木との密通のことにもいまだに触れてきますので、女三宮は困り、顔もあわせたくない思いですが、
自分から六条院を出てゆくわけには行きません。

十五夜の月が昇りつつある秋の夕暮れ、虫の声がふりしきる中で女三宮は経をあげ、源氏も低い声でそれに合わせています。
「松虫の声をお好みの秋好中宮が庭に放したのですが、野にいる時ほどは鳴かなかったそうです。
鈴虫はどこでも声を聞かせてくれるのがよろしい。」という源氏。
「秋は憂い多きものと知っているのに鈴虫の声で呼び覚まされる捨てがたい思い。」と歌にする女三宮。
「あなたはこの六条院を捨てられましたが鈴虫の声のごとく美しい。」
こう応えて琴をかき鳴らす源氏の、爪音には心奪われる女三宮なのでした。

今宵は月や鈴虫を愛でようと兵部卿宮や夕霧も六条院へやってきます。
そこへ冷泉院から誘いの便りが寄せられ、源氏は皆を引き連れて訪問し、鈴虫の宴がはじまりました。
急な訪れを喜ぶ冷泉院はいよいよ源氏にそっくりになっています。

源氏は秋好中宮のもとへも行き、准太上天皇になって気軽に訪問できないことを謝し、自分の出家後の一族のことを頼みました。
自分こそ出家したいと望む中宮を、とんでもないことと止める源氏。
母・六条御息所の魂が迷っている噂が耳に届いて辛いのですが、身分の高さからなかなか思うように
身を処すことができない秋好中宮なのでした。

恋愛セミナー43

1 源氏と女三宮  女は強くなる

仏弟子としての女三宮の位置が固まってゆきます。
身の回りの世話をしつつ、なかなか出家に踏み切れない源氏。
尼となってかえって女ぶりが上がった女三宮。
そんな二人の立場がだんだんと逆転してゆく様子が描かれています。

世話をし、手元におくことは源氏が自分を女性より優位な位置に立たせること。
経済的にはいつでも源氏のもとを去れる女三宮が、精神的にも成長を始めている。
源氏の我がままを冷静に観察し、嘘を見抜き、一方で情緒ある音楽には身を任せる。
源氏が手塩にかけた女三宮は、髪を下ろすことで女性として源氏の望んだ姿になったのです。

髪を切る。
いまでも恋を手放した方々がよく行なうこと。
櫛けずる度に美しさを増幅させ、恋というこの世の憂いの最たるものにより執着させる髪。
男性も女性も髪を切ることが、この世を捨て、恋を手放す証しなのはなんと象徴的なことでしょう。

さて、もしお手元に二千円札がありましたら、どうぞご覧になってみてください。
裏面に載っているのはこの「鈴虫」の帖。
左側にある文字は、かすかに「十五夜・・・」と読めませんか。
源氏が十五夜の夕暮れに女三宮を訪れたシーンが書かれています。
絵は源氏が冷泉院に会う場面。
そして右側は紫式部が男性たちの深夜の訪問をすこし迷惑に思いながら格子を上げている絵です。

中秋の名月は過ぎましたが、今しばらく秋の夜を、香を燻らせながら、音楽を聞きながら、
そしてお好きな本を読みながらお楽しみになってはいかがでしょうか。


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